大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所金沢支部 昭和52年(ネ)116号 判決

控訴人 渋谷宗登夫

被控訴人 国 ほか九名

訴訟代理人 木沢慎司 新保喜久 中川義信 ほか四名

主文

原判決を取消す。

本件を富山地方裁判所に差戻す。

事  実 〈省略〉

理由

一  原判決は、控訴人の主位的請求、すなわち、被控訴人国に対し本件土地の所有権が控訴人に属することの確認とその所有権移転登記手続を求める請求、及びその余の被控訴人らに対し本件土地の所有権保存又は移転登記の抹消登記手続を求める請求につき、控訴人の本件訴訟の究極の目的達成のためには迂遠な方法であり、他により適切な手段(予備的請求を指す)が存在するから、右主位的請求を認める必要がなく、また、被控訴人国は控訴人に対し、本件土地の所有権が自己に属するなど主張して積極的に争つているわけではなく、本件紛争の実体は、その余の被控訴人らと控訴人の間にのみ存するものと認められる旨判示し、結局、右主位的請求は訴の利益を欠き不適法な訴であるとしてこれを却下したものであることはその判文から明らかである。

二  ところで、登記手続など特定の給付を求める訴は、その請求自体から訴の利益の存することが当然推定されるというべきであつて、かりに、原告が誤つて、その紛争とは無関係の者を被告として訴を提起した場合であつても、それは原告の請求が理由なしとして棄却される結果となるだけであり、訴の利益がないということにはならないし、まして、他に紛争解決のためより適切な手段があるかどうかは、少くも、給付の訴に関するかぎり、訴の利益の存否の判断に影響を与えるものとは解しがたいところである。

また、控訴人は被控訴人国に対し前記のとおり本件土地の所有権確認と所有権移転登記手続をあわせ求めているが、登記請求権は所有権に基づいて派生するところの物上請求権にすぎないから、これについて実体判決を受けたとしても、その効果は本件土地の所有権が控訴人に帰属するか否かを確定するものではないが、これに反して、基本たる所有権の帰属如何が判決により確定されるならば、単に登記面のみならず、たとえば土地引渡など所有権に関連して派生する紛争について、その中心的争点に対する解決が与えられることとなるのであるから、本件のように登記手続請求とあわせてその所有権確認を求めることが訴の利益を欠くとはいえない。

もつとも、被控訴人国が本件土地の所有権の控訴人に帰属していることを争つていない場合には、その間に紛争が存在しないのであるから、所有権確認の訴の利益がないこととなるが、本件においては、被控訴人国は積極的に本件土地の所有権が自己に属する旨を主張していないというだけで、これが控訴人に属することを争つていることは記録上からも明らかであるから、被控訴人国の前記の態度からその所有権確認の訴の利益を否定することもできない。

三  以上の次第で、控訴人の主位的請求が訴の利益を欠き不適法な訴であるとしてこれを却下した原判決はそのかぎりで失当であり、本件控訴は理由があるから、原判決を取消し、民事訴訟法三八八条に従い、本件を富山地方裁判所に差戻すこととし、よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 黒木美朝 富川秀秋 清水信之)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例